《健康日本21をめぐる12の誤解・疑問と回答》
I. 運動の性格・効果等について
(1)健康日本21は、国民に政府が禁煙など特定の行動を押し付けようとするものであり、個人の自由の侵害ではないか。
(2)健康づくりは結局は個人の問題であり、国や地方自治体が目標等を計画にまとめてみても、それほど効果がないのではないか。掛け声倒れにならないための具体的推進方策はどうするつもりなのか。
(3)数値目標など決めなくてもよいのではないか。なぜそんな面倒なことをしなければならないのか。
II. 対象分野と目標項目等
(4)健康日本21は生活習慣病対策を中心としているようだが、生活習慣病はそんなに増えているのか。
(5)生活習慣病の増加は高齢化に伴うやむを得ない現象ではないのか。
(6)生活習慣病の何がどうこわいのか。
(7)生活習慣病以外の他の分野については取り上げる予定はあるのか。
(8)健康日本21では9分野にわたり多数の数値目標が設定されているが、どのような考え方でこれらの分野を選定したのか。
(9)健康日本21で設定している多数の数値目標には、手段も結果も混在しているように見え、構成がわかりにくい。どういう考え方なのか。
(10)国の健康日本21の対象分野や目標項目と都道府県の取組との関係はどう考えているのか。
III. たばこ対策関係
(11)喫煙に関する目標が、現在のような内容になったのはどういう経緯なのか。
(12)健康日本21では、たばこ分野の数値目標がなくなったのではないか。


I. 運動の性格・効果等について
 
(1)健康日本21は、国民に政府が禁煙など特定の行動を押し付けようとするものであり、個人の自由の侵害ではないか。
 健康日本21は、国民に対して、健康に関する情報提供を行うとともに、個人の健康づくりのための環境整備を行うものであり、国民に対して一定の生活習慣を押しつけようとするものではない。
 もとより、健康のためにどのように行動するかは、基本的に国民の自由な意思に基づく選択に委ねられている。
 ただ、国民の選択の前提として、生活習慣病の危険性やこれらの疾病と生活習慣との関連性のような健康に関する正確な情報が十分に提供されていることが必要である。健康日本21では、このような情報提供をその推進方策の重要な柱としている。
 また、健康づくりは、国民の自由な自己決定に基づくものではあるが、国民が健康づくりを実践しようとしても、健診の充実、個別健康指導、禁煙指導プログラム等の環境整備が十分になされていないと、その効果を期待することはできない。健康日本21では、このような健康づくりのための環境整備も重要な柱とするものである。


 
(2)健康づくりは結局は個人の問題であり、国や地方自治体が目標等を計画にまとめてみても、それほど効果がないのではないか。掛け声倒れにならないための具体的推進方策はどうするつもりなのか。
 健康日本21は、目標の設定を、厚生省のみで行うのではなく、地方公聴会やシンポジウムを開催するなど、幅広い参加者や関係団体を含めて行うという新しい手法を採用した。これにより、健康日本21の目標は、参加者や利害関係者の幅広い関与の下に設定されたものとなっており、行政が一方的に設定した場合と比べ、国民の意識変容等がより強く期待できるものと考えている。
 また、健康日本21の目標達成に向けての具体的な取組も、政府のみが主体となって一方的に推進するのではなく、国民運動として展開することとされており、国民の主体的な取組を促すために、国民に対する情報提供や健康づくりのための環境整備を、保険者その他の各種団体等との連携により進めていくこととしている。
 この国民に対する情報提供や環境整備が効果的に行われることにより、国民に、(1) 生活習慣病の恐ろしさ、(2) 生活習慣の改善の積み重ねにより生活習慣病が予防できること、(3) そのためには、日常生活の中で、少しの注意を払っていくことで足りること、(4) 運動や食事を楽しみながら生活を少しづつ変えていけばよいこと、(5) それらの積み重ねにより、健康を享受でき、自己実現を図るなど、高い生活の質を確保することができることが、広く浸透し、その結果として、健康日本21は掛け声倒れにならないものと期待される。
 なお、健康づくりは個人の生活の中で実践するものであり、そのため一人一人が選択し、納得することが前提となる。したがって、むやみに高圧的なメッセージを連発することは効果的ではなく、各々の目標項目や数値目標の根拠や考え方を情報提供し、その情報を基に、地域の実情に応じた住民の生活をイメージした具体的な取組が重要である。このような取組は、他の分野でも既に、家庭ゴミの排出量減少、臓器提供のためのドナー登録、男性の育児参加促進など数多くあり、これらにおける取組例を参考にしつつ、工夫を凝らした取組を行うことが有効である。


 
(3)数値目標など決めなくてもよいのではないか。なぜそんな面倒なことをしなければならないのか。
 健康日本21では、目標項目と数値目標を設定しているが、これは、(1) 目標の設定の際の状況の分析や取組の検討を通じて、存在する資源や能力を大きく活かすための検討ができること、(2) 取り組む基本的方向性が全ての関係者、住民に明らかとなり、共有を図ることができること、(3) 対策の実施を評価して課題を明らかにし、次の計画・実施につなげることができることなどの多くの利点がある。
 健康日本21において、目標項目と数値目標を設定したことにより、(1) 健康づくりの取組の効果がどの程度であったのかが数値化されることにより、その効果等において分かりにくいとされてきた健康づくりが国民にとっても分かりやすいものとなることが期待できること、(2) そのことにより、国民、保険者、関係団体等が運動に参加する動機付けができ、この運動を国民運動として推進する原動力となること、(3) 数値目標という達成度について明確な評価ができる目標を立てることにより、健康日本21の推進がどの程度図られたかについての評価が可能となり、今後の健康づくり対策へのフィードバックが図られること、(4) これらにより、健康日本21が行政評価の時代にマッチしたものとなること、(5) これらが相俟って健康日本21という取組が行政施策として打ち出しやすいものとなること等の利点がある。


II. 対象分野と目標項目等
 
(4)健康日本21は生活習慣病対策を中心としているようだが、生活習慣病はそんなに増えているのか。
 がん、心臓病、脳卒中、糖尿病等の生活習慣病については、平成2年と平成8年の患者調査(厚生省)によると、「がん」は、平成2年では751千人の総患者数に対して平成8年では1,363千人であり1.8倍の増加、「心臓病」は、1,596千人の総患者数に対して、2,039千人と約1.3倍、脳卒中は、1,432千人の総患者数に対して、1,729千人と1.2倍、糖尿病は、1,494千人の総患者数に対して、2,175千人と約1.5倍と生活習慣病は増加状況にある。

 平成2年(1990年) 平成8年(1996年)
がん751千人 → 1,363千人(1.81倍)
心臓病1,596千人 → 2,039千人(1.28倍)
脳卒中1,432千人 → 1,729千人(1.21倍)
糖尿病1,494千人 → 2,175千人(1.46倍)
(注)厚生省「患者調査」による。
高齢者人口14,895千人 → 19,017千人(1・28倍)
(注)平成2年については国勢調査、平成8年については人口推計年報による。


(参考)糖尿病有病者の将来推計
平成9年(1997年) 平成22年(2010年)
690万人 → 1080万人(390万人の増)
[目標:1000万人への減少]
 平成 9年(1997年):平成9年糖尿病実態調査(厚生省)による
 平成22年(2010年):健康日本21糖尿病分科会 岡山 明委員(岩手医科大)による

 
(5) 生活習慣病の増加は高齢化に伴うやむを得ない現象ではないのか。
 がん、心臓病、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病については、加齢も考慮する必要があるが、これまでの疫学研究によって、日頃からの食生活、運動などの生活習慣がその発症に強く影響することが明らかになってきている。また、生活習慣の改善によって、生活習慣病の発症や悪化を予防できることも解明されてきている。
 このため、健康日本21では生活習慣病の発症予防のために、「栄養・食生活」では、肥満者の割合の減少、「身体活動・運動」では、意識的に運動を心がけている人の増加、「休養・心の健康づくり」では、ストレスを感じる人の減少、「たばこ」では、喫煙が及ぼす健康影響についての十分な知識の普及、「アルコール」では、多量に飲酒する人の減少など生活習慣の改善の目標を掲げているところであり、今後、国民に対し広く生活習慣の改善について啓発普及していくことが重要であると考えている。


 
(6) 生活習慣病の何がどうこわいのか。
 生活習慣病の特徴の一つは、「沈黙の期間」が長く、激痛等の症状に気づいた時にはもう遅いことであるが、生活習慣病のこのような特性ないし危険性の認知度は低い。平成12年2月の総理府世論調査では「生活習慣病」という言葉の意味を理解しているとした人は3割弱にとどまっている。また、この世論調査では「自覚症状があれば行動変容のきっかけとなるのでは」との回答が47.6%と多数あったが、痛みなどの自覚症状があるまで、放置していると、深刻な合併症など個人にとっても社会にとっても重い負担になってくる。
 幸いにも、日常生活習慣を改めることにより、これらの疾病は相当程度予防できるとの知見が蓄積されてきたので、大いに正確な情報提供を行っていくことが必要である。
 また、上記の世論調査の中で行政の取組に対する考え方を聞いているが、「生活習慣の改善などは個人の問題なので、行政が健康づくりの支援を行うことは好ましくない」と「生活習慣改善に対する行政の取り組みはなるべく少なくするべきだ」という否定的な回答を選んだ人は、合計でも、10.6%に留まり、「行政は、国民の生活習慣改善に積極的に取り組んでほしい」とする人が82.8%と圧倒的多数派であった。
 なお、疾病の発症には、「生活習慣要因」だけでなく、「遺伝的要因」や「外部的要因」など個人の努力では対応できない複数の要因も関与している。したがって、生活習慣の改善が重要であることを強調しすぎて、「病気になったのは個人の責任」といった疾患や患者に対する差別や偏見を生じさせることのないよう十分留意しながら取組を進めていくべきである。

糖尿病の例
 耐糖能異常     ⇒     糖尿病     ⇒     合併症 
  痛みがないなどのため受療率が低い。しかし、放置すれば網膜症による失明、腎障害による人工透析などの合併症へと進行医療費についても合併症により増加する。  

 
(7) 生活習慣病以外の他の分野については取り上げる予定はあるのか。
 健康日本21は、21世紀の我が国の健康に係る長期戦略であり、健康についての諸課題を包含する取組が必要である。特に我が国の21世紀における課題は、超高齢社会への的確な対応であり、生涯を通じた健康づくりを実現するとともに、壮年期死亡や早世をできる限り防止することを通じて健康寿命の延伸を図ることが大きな目標である。
 そこで、こうした観点から、現在の健康日本21で十分に取り上げられていない母子保健分野、死亡、障害の原因として、今日重要な地位を占める「事故」を新たな対象分野として取り上げることとしている。そして、母子保健対策については「健やか親子21」として今年中に取り上げることとしているほか、事故についても早期に取り上げていくこととしている。この他、高齢者の健康づくりや障害者の健康づくりなども視野に入れてまいりたい。


 
(8)健康日本21では9分野にわたり多数の数値目標が設定されているが、どのような考え方でこれらの分野を選定したのか。
 現在の日本人の死因として大きな割合を占めている疾患は、がん、心臓病、脳卒中であり、これらを合わせると死因の約6割に達する。また、現在、日本で、治療を受けている患者数のうち、高血圧、糖尿病、がん、心疾患、脳卒中により治療を受けている者を合計すると、約1500万人に達する。これらの疾患は、食生活、身体活動、アルコール、たばこといった生活習慣と大きく関連している。そのため、これらの生活習慣病(糖尿病、循環器病、がん)や生活習慣(栄養・食生活、身体活動・運動、たばこ、アルコール)を重要課題として選択した。
 このほか、生活の質を考慮すると、精神疾患や口腔疾患等も大きな健康課題となっていることが示されている。このため、「休養・こころの健康づくり」及び「歯の健康」を取り上げたところである。


 
(9)健康日本21で設定している多数の数値目標には、手段も結果も混在しているように見え、構成がわかりにくい。どういう考え方なのか。
 健康日本21の目的(大目標)は、健康寿命の延伸であり、国民の生活の質の確保である。
 そして、健康寿命の延伸や国民の生活の質の確保のためには、痴呆や寝たきり等の防止が重要である。そこで、健康日本21における各分野の目標設定に当たっては、まず、痴呆や寝たきり等の生活の質を低下させる原因となる生活習慣病の減少を目標(中目標)として設定した。
 さらに、それらの生活習慣病の原因は、栄養、食生活、運動、休養、喫煙、アルコール等の生活習慣であることから、その改善に関する目標(小目標)を設定した。
 このように、健康日本21は、9分野70目標等が究極的な目標から手段的目標まで一連の関連ある目標群として設定されている。
 なお、目標値については、とりうる対策の有効性を考慮して設定することが理想であるが、推計のためのデータが限定されているのが現状であり、そのため、疫学的因果関係と危険因子の分布から、到達可能な値を推定した場合(循環器病)や、これまでの推移から期待できる到達点とした場合(身体活動・運動等)など分野ごとの状況に応じた設定が行われている。


 
(10)国の健康日本21の対象分野や目標項目と都道府県の取組との関係はどう考えているのか。
 都道府県計画においては、少なくとも国の健康日本21で取り上げた対象分野及び目標項目を基本的に取り上げていただくことが望ましい。
 また、健康づくりに関する課題には、地域差があることから、健康日本21で取り上げていない対象分野や目標項目についても、各都道府県の実情に応じて取り上げるべきものがあれば追加していただくことが望ましい。


III. たばこ対策関係
 
(11) 喫煙に関する目標が、現在のような内容になったのはどういう経緯なのか。
 昨年11月2日の健康日本21策定検討会において示された喫煙に関する主な数値目標の案は、
(1) 成人喫煙率を男女とも半減させる。
(2) 未成年者の喫煙をなくす。
(3) 国民一人当たりの消費量を半減させる。
となっていた。

 このうち(1)の「成人喫煙率を男女とも半減させること」については、その目標達成の可能性について、米国では男性の喫煙率を半減させるのに35年間を要し、女性喫煙率の半減は達成できていないほか、ノルウェーでも1964年から現在まで男女とも半減が実現されていないなどの例から、その実現の可能性が必ずしも十分でないことが指摘され、また、「国が国民に禁煙を強制している」との意見が多数寄せられるなど、各方面からの意見、要望が集中した。

 健康日本21企画検討会等としては、この問題で合計4回集中的な討議を行い、半減目標の趣旨及びこれらの経過等を踏まえ、具体的で実現の可能性が高く、国民により多くの共感が得られる目標を掲げることが適切との判断となり、
(1) 喫煙が及ぼす健康影響について十分な知識を普及する。
(2) 未成年者の喫煙をなくす。
(3) 公共の場や職場での分煙を徹底する。また、質の高い分煙についての知識を普及する。
(4) 禁煙、節煙を希望する者に対する禁煙プログラムを全ての市町村で受けられるようにする。
の4つの目標を決定したものである。


 
(12) 健康日本21では、たばこ分野の数値目標がなくなったのではないか。
 健康日本21における喫煙に関する目標は次のとおりである。

(1) 喫煙が及ぼす健康影響についての十分な知識を普及する。
知識を有する者の割合  現状(%) 2010年(%)
肺がん84・5100
喘息59・9100
気管支炎65・5100
心臓病40・5100
脳卒中35・1100
胃潰瘍34・1100
妊娠に関連した異常79・6100
歯周病27・3100

(2) 未成年者の喫煙をなくす。
喫煙している者の割合  現状(%) 2010年(%)
男性(中学1年)7・5
男性(高校3年)36・9
女性(中学1年)3・8
女性(高校3年)15・6

(3)公共の場や職場での分煙を徹底する。また、質の高い分煙についての知識を普及する。
分煙を実施している割合   現状(%)※ 2010年(%)
 公共の場――――
 職場――――
知識を有する者の割合 ――――
 ※平成12年度中に調査する。

(4)禁煙、節煙を希望する者に対する禁煙支援プログラムを全ての市町村で受けられるようにする。
禁煙支援プログラムが提供  現状(%)※ 2010年(%)
されている市町村の割合――――100
 ※平成12年度中に調査する。

 という4つを掲げている。
 これらはいずれも具体的なたばこ対策としての取組に係る数値目標であり、進捗状況を具体的に評価し、その推進を図ることができる指標である。