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月刊誌「健康づくり」2002年3月号より

日本医師会が提唱する生涯保健事業と「健康日本21」

日本医師会常任理事 櫻井 秀也

はじめに
 健康日本21の事業は、従来から行われてきた「母子保健」「学校保健」「職域保健」「老人保健」事業のように、法律に準拠して行われる事業ではなく、人々や地域、団体が自発的に参加し、自らの目標を定め、その達成をめざすことによって推進されるというところに21世紀の国民の新しい健康づくりを担う計画としての新しい地平があります。
 そして、日本医師会は、健康日本21の推進には、日本医師会の提唱する生涯保健事業の考え方を取り入れることが必要であると考えています。

日本医師会が提唱する生涯保健事業
1.生涯保健事業と健康投資

 「生涯にわたる保健事業の推進は健康投資政策である」というのが基本的理念です。
(1) 一次予防・二次予防・三次予防を包括した健康維持増進
  医療の全スペクトルである健康維持増進、疾病の予防、疾病の早期発見、診断、治療リハビリテーション、社会復帰、福祉などを包括したサービスであること。
  個人のライフサイクルの妊娠期、出産期、乳幼児期、少年期、思春期、壮年期、中年期、老年期の各期に対応して、連続するサービスであること。
  心身両面の健康問題についても、家族・学校・職場・地域社会の場を通してサービスが行われること。
(2)生涯を通じた保健事業の必要性
 生涯保健事業は、好ましい生活習慣の形成と健全な心の育成を目指すものですが、個人が生き甲斐を持ち、生きる目標を持つことも視野に入れた活動であることが必要です。
(3)健康投資の概念
 健康は資本であり、健康資本という概念が成り立つことを理解することが必要です。
 各個人は、出生時において両親から与えられた初期健康資本を保有していますが、これはある時期を過ぎると時間とともに減少します。また疾病の発症により健康資本の減少は加速されます。その減少を少しでも抑える方策が必要であり、それが健康投資であるという考え方です。
2.「健康基本法」制定の提案

 日本医師会は、健康投資の考えに基づき、「生涯にわたる健康の保持増進活動の体系化をめざして」として、「健康基本法」制定の提案をしていますが、その内容は以下の通りです。
 わが国の健康資質を向上確保するには、国民の健康を人の生涯にわたって一貫して扱う健康基本法の制定が期待されます。
 健康基本法は、国民の健康資質向上を図ることを理念として、既存の母子保健法、学校保健法、労働安全衛生法、老人保健法を包括して基本施策を規定するものであります。
 これによって国民の健康資本が蓄積され、将来、国民の資源としての健康資本が増大することが期待されます。

生涯保健事業の具体的課題
1.一次予防としての生活習慣改善対策

 これからの医師の診断活動は、症状の存在を前提とした「健康保険制度による診療」と症状の存在を前提としない「保健事業による診療」が、車の両輪となって推進されなければなりません。その意味で、地域住民が最も頻回に接触する医師であり、住民の生活史や生活環境を一番よく知っている「かかりつけ医」が、適切な健康教育を通して生涯保健事業を進めることがきわめて重要なキーポイントとなると考えます。
2.二次予防としての健康診断の改善

 学校保健、職域保健また老人保健事業に基づく各種健診事業の充実と、その結果をどのようにして各人が理解し、自分から積極的にどのように改善していくかが大切であり、その主体性を持つ学校医、産業医そして地域のかかりつけ医の役割は大きく、重要です。
3.二次予防としての健康診断結果からの事後指導の充実

 各種検診後の事後措置をどのようにしていくかは、健診事業の根幹をなす重要な問題です。特にハイリスクグループの教育は、個別の健康教育が最も重要であり、この分野でのかかりつけ医の教育的役割は重要です。
 現在、全国で展開されている老人保健事業に基づく保健事業については、健康診査の充実・強化を図ると共に、更に効果的・効率的な事後指導の方策を検討することが必要で、市町村行政だけに任せるのではなく、地域医師会も積極的に関与していくことが必要です。この点については、学校保健、職域保健等における健康診断の事後指導についても全く同様のことが言えます。
4.三次予防としての疾病の悪化、再発の予防および障害された機能回復

 三次予防は、医療と保健事業が重なりあう部分が非常に多く、かかりつけ医には、それらを包括した対応が求められます。発生した疾病の悪化、再発を予防し、身体的そして精神的機能の低下を防止し、更には早期にリハビリテーションを開始することにより、社会復帰を促進し健康年齢の延長をはかることが求められています。

健康日本21推進へのかかりつけ医と医師会の関与
 日本医師会の提唱する生涯保健事業における健康投資という概念を基本として、健康日本21が推進されるためには、かかりつけ医と医師会の関与が不可欠です。
 生涯保健事業を効率的また継続的に運営していくには、地域の幅広い健康情報の集積とその分析が必須であり、更に地域の疾病構造や医療資源などの地域特性を把握することが必要となります。その意味で、かかりつけ医の行う日常の診療保健活動を支援する地域医師会の役割はますます大きなものになると考えます。
 全国には、853の郡市区医師会、すなわち地域医師会が存在します。地域医師会における地域医療活動の実施状況についての現状調査によると、老人保健法に基づく健康診査、がん検診、乳幼児健康診査などの二次予防活動は、ほぼ9割の医師会が実施しており、健康教育、健康相談などの一次予防活動についても、約7割の医師会が実践しています。
 このような実績を踏まえて、健康日本21の推進は、全国地域医師会が中心的役割を果たすべきであり、またその役割を果たす能力を備えているものと考えます。

おわりに
 健康日本21の推進には、その基本的理念として日本医師会の提唱する生涯保健事業における健康投資という概念を持つ必要があり、その実践にはかかりつけ医と地域医師会の関与が重要で、かつ不可欠であることを繰り返して強調したいと思います。

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