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月刊誌「健康づくり」2003年2月号より

全日本断酒連盟の取り組みについて
 断酒会は1958年に誕生した〈酒害者による酒害者のための自助組織〉である。全日本断酒連盟はその全国組織で、会員数は約6万人。酒害の啓発、地域断酒組織の結成促進、酒害に関する調査・研究、講演会の開催、酒害相談などの活動を行っている。


アルコールは薬物 一人でやめるのは困難
 アルコール依存症者数は、平成9年の調査で242万人にのぼり、現在では300万人を超えるといわれている。「健康日本21」でもアルコール対策が重要なテーマになっており、多量に飲酒する人の減少、未成年者の飲酒をなくす「節度ある適度な飲酒」の知識の普及の3点が具体的な目標として掲げられている。多量飲酒というのは、一日平均純アルコールで約60グラム (日本酒だと約3合、ビールは中びん3本)以上を指す。長年、酒害の問題に取り組んできた全日本断酒連盟(全断連)の田所溢丕事務局長に、アルコール依存症とその対策について話を聞いた。

 「酒をやめられないのは意志が弱いからだと周囲は非難しますし、本人も最初のうちは、その気になればいつでもやめられると軽く考えているものです。しかし、アルコールは麻薬と同様の薬物です。アルコール依存症になってしまったら、自分一人の力で抜け出すのは非常に困難です。ですから、断酒会に入ることが必要なのです」。

  断酒会の活動の基本は、「断酒例会」と呼ばれる集い。20人くらいの会員が参加して約2時間、それぞれが酒害体験を話し、それを聞く。原則として家族も参加する。例会は週1〜2回、多い地域では毎日開催され、それをずっと繰り返していくのだという。

  「断酒会は、体験談に始まって体験談に終わるといえます。それでなぜ酒がやめられるのか疑問に思われるでしょうが、自らの体験を語り、人の話を聞くことによって、自分のしていることに対する自覚と反省が生まれ、それまでの人生観や価値観を徐々に修正していくのです。同じ悩みを持つ仲間との一体感も、酒を断つうえで大きな力になります」。

 
毎年1回、全国各都市で開催される「全国大会」
毎年1回、全国各年で開催される「全国大会」
この一般例会のほかに、それぞれの立場でさらに自己洞察を深めるために、アメシスト例会(女性酒害者)、シングル例会(単身者)、虹の会例会(身障者)、家族例会(家族)があり、さらに全断連が主催する2泊3日の断酒学校や全国大会などがある。

  「もちろん、断酒会に入ったからといって簡単に酒をやめられるわけではありません。3年後まで残るのは3人のうち1人です。それでも、酒を断つには断酒会に入って継続する以外に方法はないと思います。抗酒剤(酒を飲むと顔が赤くなって息苦しくなる薬)もありますが、効果はごく一時的なもので、断酒にはつながりません」。

アルコール依存症は家族ぐるみの病気
 「アルコール依存症は本人の健康を害するだけでなく、家族をも巻き込むやっかいな病気です」と田所事務局長はいう。

  「20年ほど前、米国からAC(アダルトチルドレン、アルコール依存症の親をもつことで心に傷と生きづらさをもった子どもたち)という概念が入ってきて、子どもへの影響がクローズアップされるようになりました」。

  全断連では、こうした問題を広く知ってもらうために〈親子を考える〉と題した冊子を作成して配付している。
 また、近年は未成年者の飲酒が増加して問題になっていることから、「中・高校生のためのアルコール教室」というパンフレットを配付したり、学校でアルコールについての講演会を行うなどの活動にも力を注いでいる。このパンフレットは大変好評で、品切れ状態だという。

今後の課題は女性と高齢者の問題

 女性の社会参加が進むにつれて女性の飲酒比率が上昇しており、アルコール依存症者数も増加している。国立アルコール症センター久里浜病院では、新規受診患者の中で女性の占める割合は1980年には9.4%だったのが、99年には14.3%に増加したという。「アルコール消費量から推計すると、この30年間で女性のアルコール依存症者数は3〜4倍に増えていると考えられますが、全断連における女性会員の比率は2001年の調査では5.8%に過ぎず、あまり増えていません。それはなぜなのか。その原因と解決策を探るため三菱財団の助成を受けて調査・研究を行い、昨年〈女性が断酒継続しやすい体制づくりの研究〉として冊子にまとました」。

  調査の結果、いくつかの問題点が明らかになったという。
 「一番大きいのはジェンダー(社会的性差)の問題です。男性会員や家族会員から、女のくせに、母親なのにアル中になって……という蔑視(べっし)の視線を感じる人もいて、肩身の狭い思いをするようです」。
 また、女性の場合はアルコール依存症になった原因(子育て、しゅうとめとの葛藤(かっとう)、対人関係、子離れ、夫の浮気など)が比較的はっきりしており、それだけに心の傷が深く、他の精神疾患を併発しているケースが多いという。
「女性の場合は背負っている問題が複雑ですから、まず女性だけのアメシスト例会に参加し、その後に一般例会に参加する形が望ましいと思います。今後は、アメシスト例会の充実を図るとともに、医療機関や行政などと連携してアメシスト例会のPRを積極的に行っていきたいと考えています」。

  女性だけでなく、高齢者のアルコール依存症も増加しており、現在、全断連の会員の中で60代以上の人の割合は42.9%にのぼるという(8年前は26.4%)。
 「30〜40代ですと、健康で働いて家族の生活を支えなくてはいけないというのが断酒の大きな動機になります。しかし、60代以上になると仕事や家族は動機になりえませんから、それに代わるものを探ることが必要です。次は、高齢者の飲酒についての調査・研究に取り組む予定です」。


三次予防を含めた総合的な対策を

 「今回の『健康日本21』では一次予防に重点がおかれています。国がアルコールの害を認めて目標値を定め、対策を明確にしたのは画期的なことで、大いに評価できます。しかし、全断連では以前から、三次予防(再発予防・リハビリ・社会復帰)まで含めた総合的な対策が必要ということで、アルコール基本総合法(仮称)の立法化を提案してきました」。

  米国では、アルコールは薬物であるとの認識のもとに、1970年にヒューズ法(アルコール乱用およびアルコール症の治療と社会復帰に関する総合法)が制定され、それに基づいて対策がとられている。

  「日本では、アルコール依存症になると3カ月ほど病院に入院させますが、米国では、体内のアルコールを数日間で解毒し、すぐにリハビリ施設でアルコール教育を受けながら仲間とともに生活するシステムになっています。断酒を継続するには一人で過ごす時間をなくすことが大事ですし、社会復帰を促すうえでも、リハビリ施設の充実が急務です」。

  日本では現在、アルコール依存症は精神保健福祉法の中で精神疾患の一つとして位置付けられているが、総合的な対策を進めるためには独自の法整備が必要だという。



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