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月刊誌「健康づくり」2003年3月号より

日本精神科病院協会の取り組みについて
 日本精神科病院協会は、民間の精神科病院によって構成されている組織で、現在の会員数は1,217病院。日本の民間精神科病院の91%が加入している。精神科病院、その他精神障害者医療施設の向上発展を図ることを目的に、幅広い活動を行っている。

精神病院から精神科病院へ名称変更で専門性をアピール
 日本精神科病院協会(日精協)は、昭和24年に設立された団体で、平成13年に名称に「科」の字を入れ、日本精神科病院協会と改名した。仙波恒雄会長に、名称変更の理由、日精協の事業内容、「健康日本21」への取り組みなどについて話を聞いた。

  「これまで精神疾患の治療は入院が中心になっており、精神病院は患者さんを地域から隔離して収容する施設というイメージがありました。精神疾患は治らない病気と考えられていたためです。しかし、近年は治療法が著しく進歩し、地域で社会参加しながら治療するという方向へ変わってきています。これは、国際的な流れでもあります」。
 こうした流れを受けて昨年「精神分裂病」は「統合失調症」という名称に変更された。かつては一生治らない病気とされていたが、今では治癒可能な病気になっており、名称変更によって、この病気に対する偏見が払拭されることが期待されている。

  「日本精神科病院協会と名称を変更したのは、収容施設というイメージを打破し、精神科を専門とする医療団体であることを明確にするとともに、患者さんに、精神疾患は治る病気であることを理解して希望をもっていただくという意味もあります」。
 日本には、精神科病院が大学を除くと1,585あるが、その84%は民間病院である。これは世界各国に比べて特異な日本の特徴で、欧米では大部分が州立や国立だという。

  「日本ではもともと、精神病者の慈善事業や処遇に関しては、お寺さんとか民間の医療福祉関係者が面倒をみてきたという歴史的な背景があるためです。精神科医療については民間病院が基本になっていますから、民間病院の大部分が加入する日精協の果たす役割は大変大きいと考えています」。
 日精協では、精神保健医療福祉に関する法制・制度への提言、精神科病院、その他精神障害者施設の管理運営、学術研究、国際交流、看護・コメディカル問題、事故対策、会報・書籍の発行など、精神保健医療福祉の全般にわたって事業を展開している。

痴ほう性高齢者対策に積極的に取り組む
  「日精協が『健康日本21』に関連する事業として力を入れているのは、痴ほう性高齢者対策です。老人性痴ほう疾患の患者さんの問題行動について、医療・福祉の現場や在宅でのケアの実態調査を行い、よりよい治療やケアのためのマニュアル作りに取り組んでいます」。

  高齢社会を迎えたわが国では、すでに65歳以上の高齢者が18%を越え、このうち7.1%が痴ほう性高齢者(約155万人)と推定されている。平成32年には痴ほう性高齢者は292万人となり、このうち10.6%はなんらかの施設入所・入院が必要とされ、さらに、2.3%(67,000人)については、痴ほうにともなう行動障害や精神症状のために老人性痴ほう疾患専門病棟での治療が必要と予測されるという。
 老人性痴ほう疾患専門病棟は昭和63年に創設されたもので、現在、急性期治療を行う痴ほう疾患治療病棟と長期治療を行う痴ほう疾患療養病棟(医療保険型と介護保険型がある)に分けられている。

  「夜中に騒いだり徘徊(はいかい)したりといった行動障害があったり、うつ、幻覚、妄想などの精神症状があると、家庭で介護するのは困難です。家族の負担が大きく、共倒れになりかねません。そういう場合は早期に痴ほう疾患専門病棟で適切な治療を行うことが必要です」。
 日精協が行った治療実態調査では、痴ほう疾患専門病棟で治療を行った場合、痴ほう症状そのものはあまり改善がみられないものの、行動障害や精神症状については約70%の人に改善がみられ、自宅に戻ることが可能になるという。痴ほう症状があっても、問題行動さえ収まれば家庭で介護することができ、痴ほう性グループホームや介護老人福祉施設などへの入所も可能になる。

  「痴ほう疾患専門病棟での入院治療の効果が高いことは実証されていますが、制度の面ではいろいろ難問を抱えています。医療スタッフの人員基準が低いために十分に機能を果たせない状況ですし、昨年の医療費改定で、痴ほう疾患療養病棟は医療保険としての開設が認められなくなりました。医療を行わないのでは老人保健施設や特別養護老人ホームと変わりませんから、日精協では医療保険型を残してほしいという要望を出しています」。

クリニカルパスの導入や処遇問題についての研究も
 日精協では、より質の高い医療を提供するために、クリニカルパスの導入や、身体抑制・隔離などの処遇問題についても研究を行っている。
 「クリニカルパスというのは最近導入された概念で、入院治療のスケジュール表のようなものです。治療内容、看護・介護、生活訓練療法などを含めて最善の治療法を検討し、チームで行う医療システムです。従来の方法ですと、同じ病院で同じ病気であっても、担当医師によって治療内容が異なるケースがありましたが、このシステムを導入すると、そうしたばらつきがなくなって標準化され、より質の高い医療を提供できます」。
 一般病院ではすでに導入している所があるが、痴ほう疾患に関するクリニカルパスは少ないので、現在いくつかの病院で試験的に実施し、有効な手法を模索しているという。

  「身体拘束や隔離は非常に難しい問題です。しかし、精神科医療の現場では避けては通れません。徘徊する、衣服を脱ぐ、夜中に騒ぐといった行動障害がある場合はやむを得ず、精神保健指定医の資格を持った医師が行うのですが、必要最少限にとどめなくてはなりません。そのためのマニュアルを作成したいということで、いま研究を行っています」。

21世紀はこころの時代 こころの健康づくり対策が重要
「痴呆高齢者に関する研修会」
「痴呆高齢者に関する研修会」
  「WHO(世界保健機構)が3年前に行った調査では、生涯を通じてその後遺症によって健康を損なう疾患の中で、上位10疾患のうち5つを精神疾患が占めています。うつ病、薬物・アルコール依存症、気分(感情)障害、統合失調症、強迫性神経症です。ですから、これらの精神疾患を減らすことが健康寿命の延伸につながります」。

  なかでも、うつ病は心疾患に次いで2位に挙げられている。日本でも中高年者の自殺が増加しており、その背景にうつ病があるといわれている。また近年は、ひきこもり、不登校、家庭内暴力などの思春期児童の問題や、犯罪・災害などの被害者にみられるPTSD(心的外傷後ストレス障害)も大きな社会問題になっている。この2つに対する精神保健福祉活動の充実を図るために、日精協では厚生労働省と共同で〈こころの健康づくり対策〉研修会を開催している。
「思春期児童の問題については専門家が少なく、相談者のニーズに対応できていない状況です。PTSDも専門家によるケアが欠かせません。ニューヨークのテロ事件では邦人にも多くの被害者が出ました。日精協では米日カウンセリングセンターに寄付を行い、被害を受けた方たちが向こうで治療を受けられるような対策をとりました」。

  PTSDは、犯罪や災害だけでなく、大きなショックを受けたときには起きる可能性があり、長引く不況の中で患者が増えることが予測されるとのこと。思春期児童の問題、PTSDともに専門家の養成が急務だという。


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