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月刊誌「健康づくり」2003年7月号より

結核予防会の取り組みについて
 結核予防会は昭和14年に設立され、結核研究を基礎に、わが国における結核撲滅を目指して活動を展開してきた。近年は、結核対策に関する国際協力を積極的に行う一方、結核だけでなく、肺がんその他の呼吸器疾患に関する研究にも取り組んでいる。

結核はいまでも国内最大の感染症
複十字シール運動
 「結核予防会が設立されたころの日本は、結核が蔓延【まんえん】し、国民病といわれていました。当時の皇后陛下が事態を憂慮され、官民一体となって対策に当たるようにということで内閣に諮られ、当会が設立されたのです」
 結核予防会事業部普及課の外山務課長は、設立の経緯をこう話す。その後、昭和26年に結核予防法が大改正され、それに基づいて強力な対策がとられたことによって、結核による死亡率は減少を続けた。
 「それに伴って当会でも、結核だけでなくその他の呼吸器疾患にも取り組むなど、事業の幅を拡大しています。現在は、研究所、二病院、一介護老人保健施設、二診療所を持ち、全国の都道府県にある支部と協力しながら事業を推進しています」
 結核は、もう過去の病気と思われがちだが、現在でも国内最大の感染症である。平成13年の新登録患者数は約35,000人、死亡者数は約2,500人。先進国の中では罹患【りかん】率が高く、WHOは日本を「中蔓延国」と指摘している。平成9年には一時的ではあるが、新登録患者数が増加に転じ、厚生省(当時)から平成11年に緊急事態宣言が出された。
 「結核がなかなか減少しない原因としては、人口の高齢化、集団感染の増加、地域格差、ホームレスなどのハイリスク集団、多剤耐性などの問題があると考えられます」
 新登録患者の約4割、死亡者の7割以上を70歳以上の高齢者が占めている。
 「結核は、結核菌によって主に肺に炎症を起こす病気です。ほとんどの場合、体の免疫機能で結核菌を抑えこんでしまうので、結核菌は肺の中で眠っていますが、体力・抵抗力が低下したときに発病することがあります。ですから、若いころに結核が流行していた世代の人は要注意といえます」
 逆に結核に感染する機会が減ってきた現在では未感染者の比率が高くなり、結核患者が発生すると、結核は空気感染なので集団感染を起こす可能性が非常に高く、この5年ほどは年間50件前後の集団感染が発生している。
 結核の初期症状は風邪に似ているため、なかなか気づきにくいが、せき、たん、微熱、倦怠【けんたい】感などが続く場合は注意が必要で、特に2週間以上、せきが続くときは自己判断せずに医療機関を受診すべきだという。
 「多くの問題点がありますが、一番大きな問題は結核に対する関心の低下です。当会では、多くの人に結核に関する正しい知識をもっていただきたいということで、毎年9月24日〜30日を〈結核予防週間〉として全国規模でイベントを開催しています。また、その行事の一環として〈複十字シール運動街頭キャンペーン〉を行っています」
 複十字シール運動は、世界共通の結核予防運動で、募金媒体としてシールが使われている。現在は80カ国ほどで複十字シールが発行されており、日本のシールは安野光雅氏がデザインしている。
 昨年、東京・渋谷のハチ公前で〈結核予防週間〉のイベントを開催した。渋谷は若者の街なので、素通りされるのではないかと心配したそうだが、意外に反応がよく、「まだ結核ってあったのか」と驚く若者が多かったという。

新たな結核対策戦略「DOTS」の普及を図る
 2002年、厚生労働省の厚生科学審議会(感染症分科会結核部会)から、「結核対策の包括的見直しに関する提言」が発表された。
 「今回の提言は、結核健診や予防接種の制度を見直すとともに、一人ひとりの患者を確実に治すことを目的としたDOTS(Directly Obseved Treatment,Short-Course)事業に力を入れるなど、対策の力点を予防から治療へ、集団的対応から個別的対応へと移し、全体的に効果を高めるのが狙いです」
 DOTSは、日本語では「直接服薬確認療法」などと訳されるが、単なる治療法ではなく、行政(保健所)と医療(病院等)の連携を強化し、患者に対する具体的な支援、その活動のモニタリングや評価を行うもので、支援の方法は、患者が服薬継続できるように医療関係者が見守ることだという。
 「昔と違って、結核は6〜9カ月、規則的に服薬すれば治ります。10種類の抗結核薬があり、3〜4種類を組み合わせて使います。ただし、途中でやめると多剤耐性菌を生み出し、薬が効かなくなってしまいます。そこで、効果をあげているのがDOTSです」
 ミャンマーなどでは、ボランティアが毎朝、患者の家を回って薬を飲ませる活動が行われているという。
 「日本では、病院内で入院患者の服薬を確認する〈院内DOTS〉がここ数年広がりを見せていますが、さらに〈日本版21世紀型DOTS戦略〉を普及させることで治療成功率を高めていこうとしています」。

罹患率の高い途上国の結核対策を支援
 世界では、いまでも毎日25,000人が結核を発病し、5,000人が死亡している。また、HIV感染者及びエイズ患者数は昨年末で4,200万人に上り、その三人に一人が結核を発病するため、危機が増大しているという。
 「当会では、日本政府や国内外の団体が途上国を中心に行っている結核対策支援活動をサポート、また、独自の事業も実施しています。ミャンマーやインドネシアなどで現地の予防会などと協力して結核対策モデル事業を行っているほか、アジアの国々でセミナーやワークショップを開催しています」
 世界各国の結核対策を支える医療関係者の育成にも力を注いでいる。結核予防会の施設の一つである結核研究所は、結核専門施設として国際的に高く評価されており、WHOの研究協力センターに指定されている。
 「世界各国からの研修生が結核研究所で学んでおり、現在までの研修生の数は、86カ国、1,800人に上ります。その多くが母国の結核対策の第一線で活躍しています」

生活習慣病の予防やたばこ対策に取り組む
結核研究所では世界各国から訪れた研修生が学んでおり、彼らの多くは帰国後、結核対策の第一線で活躍中
結核研究所では世界各国から訪れた研修生が学んでおり、彼らの多くは帰国後、結核対策の第一線で活躍中
昨年、東京・渋谷で行われた〈結核予防週間〉のイベント。併せて〈複十字シール運動街頭キャンペーン〉を展開
昨年、東京・渋谷で行われた〈結核予防週間〉のイベント。併せて〈複十字シール運動街頭キャンペーン〉を展開
  『健康日本21』に関しては、従来の健診事業のありかたを見直して事後指導などにつなげていくなどの方法を策定している。
 「健診事業は当会の事業の柱の一つになっています。近年は結核などの胸部疾患だけでなく、生活習慣病の健診にも力を入れています。糖尿病やがん、人工透析などで体力が弱ってくると結核の発病リスクが高くなりますから、保健活動は重要だと考えています」
 すでに、いくつかの支部で独自に生活習慣改善指導に取り組んでいるところもある。
 また、がん研究振興財団、健康・体力づくり事業財団、日本公衆衛生協会、日本食生活協会、日本心臓財団、日本対がん協会、日本母子衛生研究会と共同で〈たばこと健康問題NGO協議会〉を結成し、たばこ対策に取り組んでいる。
 「当会は結核の予防を目的に設立された組織ですから、その枠の中で、すでにある事業を『健康日本21』の理念に合わせて組み替え、あるいは拡大しながら、具体的な方策を見出していきたい」という。

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