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月刊誌「健康づくり」2005年2月号より

東京都とフィットネス産業団体のコラボレーション事業について

東京都は、都民の運動習慣定着を図るために、フィットネス産業団体と共同で冊子「健康づくりとフィットネス」を作成し、10月1日の都民の日に「フィットネスクラブ無料体験デー」を実施した。行政と民間がコラボレーションした初の試みとして注目されている。

新たなシステムづくりに挑戦し東京から全国に発信
 東京都では、『健康日本21』に呼応して平成13年に『東京都健康推進プラン21』を策定。その一環として16年2月に、フィットネス産業団体や学識経験者の参加を得て「民間健康増進施設連絡協議会」を設置し、都民の運動習慣定着を促進するためのプロジェクトに取り組んだ。

『健康日本21』には、行政をはじめ関連団体が連携して個人の健康づくりを支援することが盛り込まれているが、実際には立場や考え方の異なる組織が連携するのはなかなか難しく、ことに官民の壁を越えるのは容易ではない。そういう意味で、今回の東京都とフィットネス産業団体とのコラボレーション事業は大きな意義があり、今後のモデルケースとして注目される。

今回のプロジェクトがどのように進められたのか、東京都福祉保健局保健政策部健康推進課主任の石井敦子さんと、(社)日本フィットネス産業協会理事・事務局長の乙部宏樹さんにお話を伺った。

まず、東京都の取り組みについて。

「健康の三要素とされる栄養・運動・休養の中で、最も対策が進まないのが運動です。ことに東京都の場合、運動習慣のある人の割合が全国平均より低く、さらに近年は減少傾向にあります。『東京都健康推進プラン21』では具体的な目標値は掲げていませんが、『健康日本21』の数値に当てはめると、さらに205万人に運動習慣を定着させなくてはなりません。行政だけの取り組みでは実現は難しく、民間の協力が必要だと考えました」

東京都には、全国の約6分の1に当たる254カ所のフィットネスクラブがあり、年間延べ3,300万人が利用している。それに対して都内の公共健康増進施設は民間の1割に満たない。東京都にとってフィットネスクラブは貴重な健康資源であり、これを活用できないかと考えたのだという。

「当初は、民間企業を利することになるのではといった反対意見もありました。でも、一緒にやることによるメリットは大きいですし、また、新たなシステムづくりに挑戦して東京から全国に発信したいという思いもあって、理解を求めました」

将来的には諸外国のような取り組みを

フィットネス産業団体の中で中心となって動いたのは、(社)日本フィットネス産業協会(FIA)である。FIAは、フィットネス産業に関する調査・研究、情報の収集および提供を行うことにより、フィットネス産業の健全な発展を図ることを目的に、昭和62年に設立された。経済産業省所管の社団法人で、現在、正会員として135社、賛助会員として87社が加入している。

FIAでは、『健康日本21』関連の事業として、60歳以上の人をフィットネスクラブに無料招待する「敬老の日にフィットネス」キャンペーンや、中高年を中心とした水泳競技大会「FIAマスターズスイミング選手権大会」を毎年開催している。

FIAの乙部理事は、「東京都が、公共の健康増進施設ではなく、民間のフィットネスクラブを活用しようと考えた着眼点が素晴らしいと思いました」と語る。

「行政と組んだプロジェクトは今回が初めてですが、先進諸国では自治体とフィットネス産業団体が組んで事業を行っている例が数多くみられます。オーストラリアでは、フィットネス産業団体と厚生省が組んで肥満防止プロジェクトを行っています。また、生活習慣病で運動が必要な患者さんには医師が近くのフィットネスクラブを紹介するシステムができており、健康保険が適用されます」

イギリスでは、体育館や屋外プールを建て替えてフィットネスクラブにし、学校とフィットネスクラブが共同で利用する取り組みが行われており、アメリカでは、フィットネスクラブが学校の体育の授業を受託するシステムが普及しているという。

「日本でも、近年ようやく官民協働という流れが出てきました。今回の事業はその先駆けといえますし、将来的には、諸外国のような事業に発展させたいと考えています」

「健康づくりとフィットネス」を共同で作成
東京都とフィットネス産業団体が共同で作成した冊子「健康づくりとフィットネス」。運動の必要性、方法、継続のコツなどを分かりやすくまとめたもので、インターネットでダウンロードできるようになっている。

「民間健康増進施設連絡協議会」で、都民の運動習慣定着を促進するための方策について検討を重ねた結果、「初期介入が重要だという共通の認識に達しました」。

 

運動を始めるのは簡単だが、継続するのは難しい。公共の健康増進施設の利用率の推移をみると、3カ月後に約半数になり、1年後には2割しか継続していない。FIAの調査でも同様の結果が出ており、フィットネスクラブにとっても、新規入会者の初期定着を図ることが大きな課題になっている。

「東京都の場合、運動する環境は整っているにもかかわらず運動習慣が定着しないのは、健康づくりのための運動についての知識が不足しているせいではないかと分析しました。現在の中高年層が受けた体育教育の中には、まだ 健康づくり という概念はありませんでしたから。そこで、運動の意義、方法、継続の必要性を伝えるための教育ツールとして『健康づくりとフィットネス』を共同で作成しました」

これは、運動を始めたばかりの初心者向けに、運動の必要性、方法、継続のコツや、運動のための栄養、休養について分かりやすくまとめたもの。フィットネスクラブをはじめ、健康づくりにかかわる関係者が活用できるように、インターネットでダウンロードできる仕組みになっている。現在、都内の約8割のフィットネスクラブで活用されている。

さらに、「健康づくりとフィットネス」を広く都民に周知するために、9月1日から10月1日まで「TOKYO発運動習慣定着キャンペーン」を実施し、その一環として都民の日に「10月1日フィットネスクラブ無料体験デー」を実施した。

「キャンペーンは、都内147カ所のフィットネスクラブが自主的に無償協力していただき、『無料体験デー』には約4,000人の都民の参加がありました。行政だけではこれだけの成果を達成することは難しいと思います。民間と協働することで予想以上の成果を得ることができました」

官民協働で事業内容や規模が大幅にレベルアップ

今回のプロジェクトについては、東京都・業界団体ともに初めての取り組みだったため、実現にこぎつけるまでに紆余曲折があり、また具体的な作業に入ってからも、両者の認識の差や感覚のずれが大きく、それを埋めていくプロセスが大変だったという。

「打ち合わせの回数や時間は大変なもので、それこそヘトヘトになるまでやりました。その結果として、バランスのとれた、本当に使えるものができたと思います」

東京都からは、医師、栄養士、保健師などの専門家が参加し、フィットネス業界からは、フィットネスクラブのプログラム開発マネジャーなどが参加した。専門家の知識と現場の意見がミックスされたことによって、「健康づくりとフィットネス」は充実した内容のものに仕上がったという。

「今、『官民分業』から『官民協働』へと時代の流れが大きく変化しています。今回のプロジェクトを通して、それぞれ立場の違う両者が力を出し合うことによって、いいものができ、事業規模も飛躍的に拡大するのを経験し、協働することの効果を実感しました」と乙部理事は言う。

今回のコラボレーション事業は、予想以上の成功をおさめた。今後は、この取り組みをいかに発展させていくかが課題だとしている。

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