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月刊誌「健康づくり」2001年5月号より

「健やか親子21」について

厚生労働省雇用均等・児童家庭局 母子保健課長 藤崎 清道

はじめに
 2000年11月17日に「健やか親子21検討会報告書」が公表されました。本報告書は厚生省「健やか親子21検討会(座長 平山宗宏 恩賜財団母子愛育会日本こども家庭総合研究所所長)」により、同年2月3日から10月25日に至る計9回の会議での議論を経て取りまとめられたものです。「健やか親子21」は20世紀中に関係者の努力により世界最高水準に達した日本の母子保健について、これまでの成果を踏まえて、21世紀初頭に取り組むべき方向を示したもので、今後の母子保健の指針となるものです。
 その概要について紹介いたします。

1.「健やか親子21」とは何か
(1) ビジョンであり国民運動計画である
 「健やか親子21」は、21世紀の母子保健の主要な取り組みを提示するビジョンであり、関係者、関係機関・団体が一体となって推進する国民運動計画です。
 同時に、安心して子どもを産み、ゆとりを持って健やかに育てるための、家庭や地域の環境づくりという少子化対策としての意義と、少子高齢社会において、国民が健康で元気に生活できる社会の実現を図るための、国民健康づくり運動である「健康日本21」の一翼を担うという性格も持っています。

(2) なぜ親子か
 取り組みの対象は主として母子保健分野になりますが、目指すものは広く父親や祖父母も含めた親と子が健やかに暮らせる社会づくりですので、象徴的な意味をこめて「健やか親子21」としました。

(3) 計画期間
 国民運動計画の期間は2001年から2010年までの10年間で、中間年の2005年に実施状況を評価し、必要な見直しを行います。2010年を目標年とした達成目標を設定していますが、この点は「健康日本21」と同じですので、地域での計画を一体として進めていただいてもよいでしょう。

2.「健やか親子21」の構成
 ビジョンであり運動計画である「健やか親子21」は(1)主要課題と(2)推進方策から構成されています。全体のイメージを図に示しました。

図「健やか親子21」

(1)主要課題
 4つの主要な取り組み課題を設けていますが、次のような4つの基本的視点に基づいて考えています。
a. 20世紀中に達成した母子保健の水準を低下させないために努力すること:母子保健医療システムの質・量を維持する(放置しておくと維持できない恐れがあると考えています)。
b. 20世紀中に達成しきれなかった課題を早期に克服すること:乳幼児の事故死亡、妊産婦死亡、予防接種の実施などについて世界最高水準を達成することを目指す(20世紀の積み残しを早期に解決し、文字通り世界最高水準を目指します)。
c. 20世紀終盤に顕在化し、21世紀にさらに深刻化することが予想される新たな課題に対応すること:思春期保健、育児不安・ストレスと子どもの心の発達の問題、児童虐待問題などに取り組んでいく(これまでの手法では対応できない新しい課題に立ち向かっていかなければなりません)。
d. 新たな価値尺度や国際的な動向を踏まえた斬新な発想や手法により取り組むべき課題を探求すること:ヘルスプロモーションの理念・方法の活用、根拠に基づいた医療(EBM)の推進、生活の質(QOL)の向上の観点から妊娠・出産における環境や慢性疾患児・障害児の療育環境を整備、保健・医療・福祉・教育・労働施策の連携などを行う(新しい世紀にふさわしい発想で取り組んでいこうとしています)。
○課題
 4つの主要課題がありますが、各課題に盛り込まれた取り組みの内容こそが「健やか親子21」の中心で、21世紀初頭に母子保健行政として(国民運動として)集中的に取り組むべきものなのです。ここで気をつけていただきたいのは、主要課題に含まれない内容もやはり大切だということです。つまり、国民運動として集中的に取り組むべき課題を明らかにし、総花的なアプローチを避けるために、先に述べた4つの基本的視点に立って、4つの主要課題が抽出されたということで、主要課題に含まれない大切な内容については、日常の事業や活動の中で着実に取り組まれていくことを前提としているのです。また、歯科保健や栄養に関する課題は「健康日本21」で既に取り上げられていますので、そちらの計画に組み入れていただき、地域レベルで連携していただくことを期待しています。
 報告書には各課題ごとに(問題認識)、(取り組みの方向性)、(具体的取り組み)が記載されていますが、詳しい内容は報告書を参照していただくこととし、ここでは各課題ごとに概要について説明させていただきます。

a. 思春期の保健対策の強化と健康教育の推進
 思春期における妊娠中絶率や性感染症罹患率の上昇などの性行動にかかわる問題や薬物使用、喫煙、飲酒、過剰なダイエットなどの問題が深刻化しています。また併せて、きれる子ども、心身症、登校拒否、思春期やせ症などの心の問題も顕在化しています。これらの問題は思春期における心身の健康上の問題にとどまらず、父となり母となり、また中年・高年に至る将来への影響の大きさの観点からも見過ごせない問題です。現代社会のさまざまな問題の反映なので解決の難しい課題ですが、放置すれば21世紀さらに悪化することが予想されるので、早急に取り組む必要があります。
 取り組みの方向として、性と健康にかかわる問題については、個々人の行動を変えるに至るようなインパクトのある健康教育や健康情報の提供となるように、その量的拡大と質的転換を目指します。心の問題については、教育・地域保健福祉・医療の連携を推進するとともに児童精神科医をはじめとした思春期の心の専門家の養成・配置を推進します。全般にわたって学校保健の果たす役割が大きくなっていますので、厚生労働省と文部科学省が密接な連携を取って進めていきます。
b. 妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援
 妊娠・出産に関する女性の負担を安全性、快適性(QOL)の両面から医学的・社会的に支えようというものです。国際的にはリプロダクティブへルスやQOL重視の流れに沿ったものですし、国内的には安全で安心して妊娠・出産できる環境づくりという少子化対策の流れに沿ったものです。
 世界最高水準の安全性の実現を追求するとともに、妊娠・出産に妊婦の選択と希望を反映させるように情報提供や環境整備を行っていきます。またこの時期は児と母親の愛着形成にとっても大切な時期なので、妊娠・出産・子育てに関する妊産婦の不安を軽減するように支援していきます。不妊治療については、体外受精をはじめとした生殖補助医療技術の進歩が、不妊に悩む夫婦にとって真の意味での福音になるような環境の整備(医療内容の標準化、相談やカウンセリング体制の整備による情報提供とメンタルケア)を推進します。本課題全般にわたり、産科をはじめとした周産期医療関係者の役割が大きくなっています。また、職場や社会全体の理解・支援も重要です。
c. 小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備
 少子化時代のわが国において、少なく生まれた子どもをより健やかに育てるための環境づくりを行うことが切実に求められています。
 死亡をさらに減らすために、乳幼児の事故・乳幼児突然死症候群(SIDS)の発生予防や予防接種率の向上を目指します。また、QOLの向上の観点から、ボランティアの協力も得て慢性疾患児や障害児の入院環境の改善や在宅ケアの体制整備を推進します。
 一方、小児医療の不採算性のために小児病棟が閉鎖されたり、小児救急医療が適切に提供されていないなどの問題や、小児科医師志望者の減少など、これまでの小児保健医療システムを崩壊させかねない状況が出現してきていますので、緊急対策と長期的な対応とが必要になっています。地域保健においてもこれまでの母子保健の水準が良好なことや高齢者保健・介護対策に力を注がねばならないために、母子保健に十分な対応をとれない自治体がみられるなど、行政サービスの低下が懸念されていますので、その防止のための対策をとっていきます。本課題全般にわたって、小児医療関係者の役割が大きく、また国、地方公共団体など行政の役割も重要になっています。
d. 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減
 児童虐待に代表される親子関係と両親の育児不安・ストレスに影響される子どもの心の問題が深刻化しています。これも思春期保健の問題と同様に、放置すれば21世紀にはさらに悪化することが予想されますので、早急に取り組まねばなりません。また、この問題は原因と結果の因果関係が明確になっていて、予防方策を立てることが可能なので、母子保健における公衆衛生的・医療的介入による予防・早期発見・早期介入に大きな役割が期待されます。親と子の心の問題を母子保健の中心課題に据える時代が来たのです。
 対策の基本は、妊娠の始まりから出産・育児期を通じて、これまでの地域保健と医療サービスの内容を、親と子の心の問題を日常的に常に意識して支援していくように転換することです。また、より効率的に支援するためには、虐待に至る危険性の高い親子に対する継続的なケアを行っていくことと、それ以外の親子への定期的なケアを行う体制とを分けて考えることも有効でしょう。地域においては、母子保健単独ではなく、福祉・ボランティアなど保健医療専門家以外の方々との連携を推進し、総合的な子育て支援の一環として皆で取り組んでいくことが大切です。

(2)推進方策
「健やか親子21」の特徴・革新性は何かと尋ねられれば、その推進方策にあると答えられるでしょう。その理由は、行政が制度や予算を決めて関係者に示すのではなく、国民(住民)自らの努力を基本として、国民(住民)・地方公共団体・国・専門団体・民間団体それぞれが自主的な判断で4つの主要課題の達成に貢献していくという姿を目指していることにあります。
 報告書では、そのようなヘルスプロモーションの基本理念を明確にした上で、以下の具体的な推進方策を示しています。
a. 関係者、関係機関・団体の寄与し得る取り組みの内容の明確化
 各課題ごとに、国民・地方公共団体・国・専門団体・民間団体それぞれの主体が寄与し得る取り組みを可能な限り具体的に示しています(報告書の例示を参考にしてください)。なお、地方公共団体の基本的役割については、次のように述べられています。
 “地方公共団体は、地域特性を重視しながら、住民が各課題を地域の課題としてその解決に取り組めるよう積極的な支援を行うことが必要で、他の地方公共団体や関係部局などが連携して、住民参加のうえ地域における各課題の目標の設定と評価などを行うとともに、地域における関係者への研修や関係団体の活動などを支援していく。
 住民に最も身近な市町村においては、地域住民のニーズに応じた母子保健サービスを提供していく。今後、母子保健計画の見直しなどを行う場合には、「健やか親子21」の趣旨を踏まえ、住民参加のもと、関係機関・団体の協力を得つつ進めていく。
 都道府県においては、都道府県として独自に推進していく取り組み内容を明確にするとともに、市町村が各種の取り組みを進めやすいよう、広域的な連絡調整や情報提供などの必要な支援を行うことが求められる。この分野における保健所の役割は重要である。”
 「月刊健康づくり」2月号に、生活習慣病とのかかわりを中心に、ヘルスプロモーションについてご紹介しましたが、健やか親子21の推進にあたっても同様の考え方・手法が適用できます(注)ので、ご参照いただければ幸いです。
b. 「健やか親子21推進協議会」の設置
 関係者などの取り組みを推進するため、行動計画の取りまとめや経験交流などを調整し、また併せてインターネットなどによる情報提供や意見の収集などを行う協議会を中央に設置します(平成13年4月に設立総会を開催し、年内に「健やか親子21第1回全国大会」を開催する予定です)。
c. 2010年に向けての目標の設定
 国民運動計画ですので、計画期間と具体的な指標を明確にすることが有力な方策となります。4つの各課題ごとに、「保健水準の指標」、「住民自らの行動の指標」、「行政・関係機関などの取り組みの指標」の3段階に分けて目標を設定しています。計61項目の指標により構成され、報告書に掲載されていますが、これは日本全体での取り組みを評価していくためのものですので、市町村においてはこれにとらわれず、地域特性に応じた自主的な指標を設定していただきたいと思います。
 参考に、(1)主要課題 d. 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減について、に関する指標を表に示します。

表 子どもの安らかな発達の促進と育児不安の軽減
指標 現状(ベースライン) 2010年の目標
[保健水準の指標]
4-1虐待による死亡率
※3('01)調査 減少傾向へ
4-2法に基づき児童相談所などに報告があった被虐待児童 ※6('01)報告 増加を経て減少へ
<4-3子育てに自信が持てない母親の場合 ('00)幼児健康度調査 減少傾向へ
4-4子どもを虐待していると思う親の割合 ('00)幼児健康度調査 減少傾向へ
4-5ゆったりとした気分で子どもと過ごせる時間がある母親の割合 ('00)幼児健康度調査 増加傾向へ
[住民自らの行動の指標]
4-6育児について相談相手のいる母親の割合
('00)幼児健康度調査 増加傾向へ
4-7育児に参加する父親の割合 ('00)幼児健康度調査 増加傾向へ
4-8 子どもと一緒に遊ぶ父親の割合 ('00)幼児健康度調査 増加傾向へ
4-9出産後1カ月時の母乳育児の割合 ('00)乳幼児身体発育調査 増加傾向へ
[行政・関係機関等の取り組みの指標]
4-10周産期医療施設から退院したハイリスク児へフォロー体制が確立している二次医療の割合
※3('01)調査 100%
4-11乳幼児の健康診査に満足している者の割合 ※3('01)調査 増加傾向へ
4-12育児支援に重点をおいた乳幼児健康診査を行っている自治体の割合 ※3('01)調査 100%
4-13常勤の児童精神科医がいる児童相談所の割合 ※3('01)調査 100%
4-14情緒障害児短期治療施設数 17施設 全都道府県
4-15育児不安・虐待親のグループの活動の支援を実施している保健所の割合 ※3('01)調査 100%
4-16親子の心の問題に対応できる技術を持った小児科医の割合 ※3('01)調査 100%
※3 厚生科学研究(子ども家庭総合研究など)   ※6 保健所運営報告


おわりに
 「健やか親子21」の概略を紹介しましたが、詳しい内容についてはぜひ報告書全文を熟読いただくよう願っています。本計画は、国民一人ひとりの努力を基本に、地方公共団体をはじめ、保健・医療・福祉・教育・労働などの専門団体や民間団体の幅広い関係者により推進されることに特徴があります。つまり、関係者一人ひとりが日常の生活や活動やサービスの中で、それぞれの寄与し得る役割を果たしていただいていることが、国民運動としての「健やか親子21」の姿そのものなのです。平成13年の1月より既に国民運動としての計画はスタートしていますので、読者諸氏が、本稿を参考にされ、健やかに親子が暮らせる社会を実現するために、それぞれの分野で貢献していただくことをお願いいたします。
(注)「ヘルスプロモーション・新エンゼルプラン・健やか親子21」:藤崎清道.「公衆衛生」2000年10月号、VOL.64-NO.10 P692-696

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