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月刊誌「健康づくり」2002年5月号より

健康増進法案について

厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室 室長補佐 正林 督章

1. 経 緯
○生活習慣病予防の重要性
 かつて死亡原因の主要な部分を占めた感染症は減少し、我が国の衛生指標は1970年代より世界のトップクラスを維持している。しかしながら、人口の高齢化が急速に進む中で、がん、心臓病、脳卒中、糖尿病、歯周病等の生活習慣病が増加しつつある。この生活習慣病は、ある一定の年齢になれば誰でも罹る、避けられない病気と誤解されがちであったが、食生活、運動、休養、喫煙、飲酒といった生活習慣と関係が深く、不適切な生活習慣を改善することにより予防が相当程度可能となることがわかってきた。これを実現するためには、健康づくりは自ら取り組むものであることを本人が自覚するとともに周囲の人がその個人の努力を支えるため、適切な情報を提供することや個人を取り巻く健康づくりのための環境を整備すること等が重要であることが指摘されてきた。
○健康日本21の策定
 以上の背景の中、平成12年3月31日に厚生省事務次官通知等により、国民健康づくり運動として「健康日本21」が開始された。その推進方策として、1.普及啓発、2.推進体制整備、地方計画支援、3.保健事業の効率的・一体的推進、4.科学的根拠に基づく事業の推進、の4本柱が掲げられている。
 開始以降、健康日本21は着実に進展し、平成13年度末には全ての都道府県が都道府県計画を策定した。しかしながら、市町村計画は、平成13年11月の段階で、3,247市町村のうち、140のみが策定をし、1,741が策定未定であり、その全国的な策定・推進はこれからという段階にあると考えられた。
○医療制度改革
 健康づくりは医療制度改革全体の中でも重要な柱と位置づけられている。厚生労働省は、平成13年9月に医療制度改革試案を公表したが、その中で、医療保険制度の改革と併せ、健康づくり・疾病予防を推進する必要性を指摘した。その後の政府・与党での検討を経て、11月29日にとりまとめられた医療制度改革大綱の中で健康づくりや疾病予防を積極的に推進するための法的基盤整備が指摘された。これを受けて、平成14年3月1日、医療制度改革の一環として、健康保険法等の一部改正法案とともに、健康増進法案が国会に提出された。

2. 健康増進法案の骨格
(総則)
 第1章総則では、まず、この法律は、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、国民の健康の増進を図るための措置を講じ、国民保健の向上を図ることを目的とすることを規定している。
 責務に関しては、国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努める旨規定し、続いて、国及び地方公共団体は、健康の増進に関する正しい知識の普及等を図るとともに、関係者に対し必要な技術的援助を与えることに努める旨を規定している。また、医療保険各法の保険者、労働安全衛生法で健診等の義務を負う事業者、母子保健法や老人保健法の保健事業の実施主体である市町村、学校保健法の健診等を実施する学校など(この法律上健康増進事業実施者という)は、健康の増進のための事業を積極的に推進するよう努める旨規定し、さらに、国、都道府県、市町村、健康増進事業実施者、医療機関その他の関係者は、相互に連携・協力するよう努める旨規定している。
(基本方針等)
 第2章では「健康日本21」の法制化の柱とも言うべき事項を規定している。
 第1に、厚生労働大臣は、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本方針を策定するとしている。この基本方針は、(1)基本的な方向、(2)目標に関する事項、(3)都道府県健康増進計画及び市町村健康増進計画の策定に関する基本的事項、(4)食生活、運動、休養、飲酒、喫煙、歯の健康の保持その他の生活習慣に関する正しい知識の普及に関する事項などについて定める旨規定している。国民の健康の増進のためには、多様な主体が目的意識を共有し、相互に連携・協力しながら国民の努力を支援することが必要であり、このため厚生労働大臣が関係者に共有される基本的な方針を定めるものである。
 第2に、都道府県は、この基本方針を勘案して、都道府県健康増進計画を定めるものとし、市町村は、基本方針及び都道府県健康増進計画を勘案して、市町村健康増進計画を定めるよう努めるものとする旨を規定している。これは「健康日本21」の推進方策の大きな柱である地方計画に関する根拠条文となるもので、住民や関係者の積極的な参画のもと、課題や資源等に関する各地域の実情に応じた運動推進のための重要な方法として活用されることが期待されている。
 第3に、健康診査等指針に関する規定である。健康診査の実施及びその結果の通知、健康手帳の交付その他の措置については、現在は各制度ばらばらで行われており、データの継続的評価が困難で生涯を通じた健康管理に活かしにくいという問題があると指摘されている。このため、厚生労働大臣が共通の指針を定め、個人が生涯を通じ自分の健康管理に積極的に取り組める基盤を整備することとしている。なお、指針の実効性を高めるため、健康増進法案の附則において、医療保険各法等に基づく保健事業の実施基準等は当該指針と調和がとれたものでなければならないとする旨改正を行うこととしている。
(国民健康・栄養調査等)
 第3章は、国民健康・栄養調査の実施に関する規定と、生活習慣病の発生状況把握の努力義務に関する規定からなる。前者は現行の栄養改善法による国民栄養調査の拡充、後者は新設の規定である。
(保健指導等
 第4章では、現行の栄養改善法にある市町村による栄養相談等及び都道府県等による専門的な栄養指導等の規定を踏まえ、栄養・食生活に限らず各般の生活習慣の改善に関する相談や保健指導全般に拡充した規定を設けている。
(特定給食施設及び受動喫煙防止)
 第5章前段の特定給食施設関係の規定は、現行の栄養改善法における集団給食施設の関係規定を実質的に引き継ぐとともに所要の規定を整備するものである。
 本章後段では、「健康日本21」のたばこ分野の目標の1つである分煙の推進に関し、学校、官公庁等多数の者が利用する施設の管理者に対し、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずる努力義務を課す規定を設けている。
(その他)
 第6章は、現行の栄養改善法による食品の特別用途表示制度及び栄養表示基準制度を引き継ぐもの、第7章は雑則、第8章は罰則である。また、附則において、施行期日について、公布日から9月を超えない範囲内で政令で定める日(健康診査の実施等に関する指針に関する規定については、公布日から2年を超えない範囲内で政令で定める日)としている。また、関係規定が健康増進法の中に引き継がれることから、栄養改善法は廃止する旨規定されている

3. 今後の健康増進政策の展開
 健康増進法が国会で成立し、公布施行されれば、健康づくり対策は同法をその基盤として一層推進されることが期待される。特に健康日本21の中核は住民に身近な市町村のレベルで住民の参加を得ながら計画を策定し、国民運動につなげていくことにあり、これが法の整備によってより活性化されることが期待される。また、健診等の指針が策定され、その指針に沿って各健康増進事業実施者の事業が展開されれば、母子保健と学校保健との連携が確保されるとともに転職及び退職時に健診の実施者が変わっても健診情報の相互の互換性が確保され、生涯にわたる一貫した健康管理が可能となることが期待される。この他、国民に対する適切なる情報提供は更に推進されるとともに受動喫煙の防止を始めとした様々な健康づくりの環境整備の促進が期待される。
 しかしながら、国民の健康は国や地方公共団体、その他関係者が供与するものではない。あくまでも国民一人ひとりが健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めるものである。今後の健康づくりは、このような国民の自由意志と責任に基づき、展開されていくものと期待される。

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