第1節 早世・障害の現状

1.早世
 生命表による65歳未満区間死亡確率(LSMR・65歳までに死ぬ可能性)は、1948年には50%前後であったものが、1997年には男性で15.7%、女性で7.8%と、著しく改善してきており、今後さらに低下すると予測されている
(図5-1)。しかし、地域格差を見ると、男性で最低の長野県と最高の青森県の間に1.5倍の開きがある(図5-2)。この65歳未満の死亡確率のうち15歳までの少年期は全体の5%前後に過ぎず、大半は45歳から64歳の中年期に集中している。
 早世によって失われた寿命の長さを表す標準早死損失年(PYLLSR)で測ると、「がん」が最も大きく、次いで「不慮の事故」、「自殺」、「心疾患」、「脳血管疾患」となる(図5-3)
 人生の各段階、ライフステージ別に死因構造を比較すると、0〜4歳においては「先天性・周産期」の疾患が最も多く、5〜24歳では「不慮の事故」、25〜44歳では「不慮の事故」に「自殺」や「がん」が加わり、45〜64歳では「がん」が最も大きな原因を占める(図5-4)

図5-1 区間死亡確率(0〜64歳)の年次推移

▲文章へ戻る


図5-2 都道府県別区間死亡確率(0〜64歳)分布

▲文章へ戻る


図5-3 標準早死損失年

▲文章へ戻る


図5-4 ライフステージ別死因別死亡割合

▲文章へ戻る



2.障害
 全年齢を通じた障害手帳を有する障害者は約576万人と推計されており、幼少年期には「知的障害」が、青壮年期には「精神障害」が、そして中年期には「身体障害」の発生が多く認められる。中年期以降に起こる身体障害は、主に循環器疾患(脳卒中)や骨折・転倒による。これらの障害の予防には生活習慣病対策として若年期からの取り組みが必要である。また、咀嚼機能に影響を与える歯科疾患や視力低下等の視覚障害など、生活の質に最も影響を与える障害は高齢期に多い。寝たきり老人および痴呆老人が2000年には約140万人、2010年には200万人に達すると予測されている。近年、介護保険の導入に伴い市町村レベルでの障害のない平均余命(DFLE)の算出が可能となりつつある。

3.早世と障害を合わせた病気負担
 「早世と障害を合わせた」社会全体の病気による負担を、近年開発された「障害調整生存年(DALY)」の簡便法によって測ると、「がん」、「循環器疾患」、「精神疾患」がそれぞれ全体の約20%づつを占め、次いで「不慮の事故」が大きな割合を占めている(表5-1)

表5-1 障害調整生存年でみた主要疾患(1993)

がん
うつ
脳血管障害
不慮の事故
虚血性心疾患
骨関節炎
肺炎
自殺
精神分裂病
19.6%
9.8%
8.6%
7.0%
4.9%
3.5%
3.3%
3.2%
2.5%
   
肝硬変
糖尿病
ぜんそく
先天異常・奇形
慢性関節リウマチ
歯科疾患
腎炎、腎不全
慢性閉塞性肺疾患
アルツハイマー等痴呆
1.9%
1.8%
1.7%
1.3%
1.2%
1.0%
1.0%
0.8%
0.7%

▲文章へ戻る


4.その他の視点
 一人ひとりから健康をみると、「日常生活を満足して送る」、「働くことができる」、「食事がおいしい」といった固有の捉え方で表現されることが多く、病気の有無だけに関心があるのではない。したがって、死亡や障害だけでなく、日常生活に関連して健康をとらえる視点が必要である。
 特に、こころの健康は、自分の感情に気づいて表現できること(情緒的健康)、状況に応じて適切に考え、現実的な問題解決ができること(知的健康)、社会や他者と建設的でよい関係を築くことができること(社会的健康)などの側面を持ち、生活の質と密接な関連を持っていることから、身近な健康を考える上で重要な課題である。

 これらの大きな課題について、改善の可能性を考慮しつつ取り組む必要がある。個人の生活習慣やそれを取り巻く社会環境が年齢や集団によって異なっていることから、第6章で述べるように、年齢別、集団別に予防すべき病気と改善すべき原因を明確にして対応することが必要である。

▲ページのトップへ


第2節 目標設定の考え方

 65歳未満区間死亡の減少を目指すことは、人生の段階における一人ひとりの早世の可能性を減少させることを意味し、健康日本21の理念と合わせて有用と考えられる。65歳未満区間死亡確率は、男性で15.7%、女性で7.8%、合わせて11.8%であり、2000年には男性で15.4%、女性で7.3%、合わせて11.4%になると推測されている。がんによる65歳未満区間死亡率は、男女合わせて4.6%、全体の39%、脳卒中は1.6%、全体の9%、自殺は0.95%、全体の8%、そして虚血性心疾患は0.67%、全体の7%を占めていた(1997年)。
 一方、国民の健康寿命を延長するためには高齢障害者の減少が必要である。障害については、65歳以上の寝たきり・痴呆が2010年には200万人に達すると予測されている。これらの原因には脳卒中や骨折などが考えられる。
 早世を減らすことと高齢者の障害を防ぐことを目的とした場合、それに関連する疾患をいかに減らすかが、課題となる
(図5-5)。高齢者の障害を減らすとすれば、脳卒中や骨折の減少、さらには歯の喪失を防ぐことが課題となる。これらの疾病は、多くの場合生活習慣に深く関連しており、高血圧や糖尿病、たばこ、肥満、身体活動などが問題となる。
 従って、大目標としては早世を減らし、高齢障害者を減らすことになる。中目標としては「がんを減らす」、「脳卒中を減らす」、「心臓病を減らす」、「自殺を減らす」、「歯の喪失を減らす」等を考え、これらの大目標、中目標を達成するための生活習慣の改善目標として小目標を考える。  このような考え方をもとにして各論においてそれぞれの基準値と目標値を設定する。

図5-5 早世、障害につながる危険因子

▲文章へ戻る


▲ページのトップへ