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月刊誌「健康づくり」2002年9月号より

社会保険健康事業財団の取り組みについて

社会保険庁の委託を受けて健康管理事業を推進
 社会保険健康事業財団は、平成2年に社会保険庁所管の財団法人として、政府管掌健康保険(以下政管健保)、厚生年金保険、船員保険及び国民年金の被保険者等に対する健康管理事業を推進し、福祉の増進に寄与することを目的に設立された。主に生活習慣病予防健診に関する事業、健康増進施設の運営、健康増進に関する調査研究等を行っている。社会保険健康事業財団の事業内容と『健康日本21』への取り組みについて、武舎信之常務理事に話を聞いた。

 「健康保険の保険者が疾病給付とは別に福祉施設事業を行っていますが、私共財団はその中の政管健保の保険者からの委託事業である被保険者等に対する健診の受診勧奨、健診結果データの管理、保健師による健診事後指導等を行っています」。

 平成13年度の健診対象者は約1,100万人に上り、健診受診者はその3分の1程度だという。

 「実施率をもっと上げたいのですが、政管健保の財政が厳しい中にあって、現状では予算を増やしていただくことは難しい状況となっており、ここ数年は実施率が据え置きとなっています。しかし、健診事業は重要だと考えています。ことに政管健保の場合、92%が従業員30人以下の事業所です。大規模の事業所では産業医が配置されているなど従業員の健康管理がきちんと行われていますが、小規模の事業所では、そこまで手が回らない所もありますから、健診及び健診事後指導の果たす役割は大きいと思います」。

 社会保険健康事業財団の事業のもう一つの柱は、健康増進施設の運営である。全国45カ所にある社会保険健康(づくり)センター〈ペアーレ〉では、心身の健康づくり、生きがいづくりをサポートするための各種講座や健康セミナーの開催、健康相談等を行っている。

 「私共財団の健診事業は基本的には2次予防が中心ですが、今後は『健康日本21』が目指す1次予防対策にも今まで以上に積極的に取り組んでいきたいと思っています。保健師による健診事後指導の充実を図るとともに、〈ペアーレ〉の事業運営においても、保健師や運動指導員との連携を密にし、健康増進事業をより積極的に行う方針です」。

「健康日本21」の理念に沿った保健師活動を展開
 健診事後指導は、生活習慣病予防健診結果が〈軽度異常〉〈経過観察〉と判定された人たちを対象に、保健師が生活習慣改善の助言を行うものである。平成13年度の事後指導対象者は約130万人で、実施人員は約43万人である。
 健診事後指導に取り組んでいる保健部健康指導課の松田一美課長は、『健康日本21』について次のように話す。
「いわば1.5次予防的な仕事に携わってきた保健師にとって、『健康日本21』が打ち出されたことは大変な追い風です。この12年間の財団の事業が国の施策として取り入れられた思いです。平成12年に〈健康日本21検討会〉のプロジェクトを立ち上げ、その検討結果に基づいたシミュレーションを2年間実施し、これならいけるという確証を得て、この7月から全国展開を始めたところです」。

 具体的な取り組みとしては、次の3項目が挙げられる。
(1)目標を設定した保健師活動の実施
(2)健康増進コース(個別健康教育の手法を取り入れた健診事後指導)の導入
(3)社会保険健康(づくり)センターを活用した1次予防対策等の充実
「(1)の目標については、国の調査結果と政管健保のみなさんの健康状態とは多少異なりますので、それに応じた目標を設定しています。例えば政管健保の場合、〈運動〉の面に問題があり、健診結果で何らかの異常値のある人の7割強が運動をしていないというデータが出ています。運動習慣のない人に本格的な運動を勧めるのは無理ですから、まず1回20分以上の運動を週1回行う、次はそれを週3回にするといった形で段階的に目標を設定しています」。
(2)の健康増進コースは、『健康日本21』に確実に寄与できる部分だという。

 「フォローアップコース、禁煙チャレンジコース、減量チャレンジコースの3種類があり、1年間に面接、電話、文書による相談を5〜7回、検査を1回行います。面接時間は平均20分と短いので、対象者の生活状況や健康状態を効率的に把握するために、独自の調査・判定システムを工夫しました。私共としてできる範囲ではベストの手法だと自負しています」。

 この手法に基づいてシミュレーションを行った結果、血糖値、総コレステロール、中性脂肪、GOT、GTP、γ‐?GTP、尿酸、収縮期血圧、拡張期血圧、肥満の10項目のうち、中性脂肪と拡張期血圧の2項目以外の8項目では、総コレステロール10.8mg/dl、血糖値17.3mg/dl減少など、かなり良い数値が得られたという。生活習慣の改善率は86.4%、禁煙成功率は50%であった。「この手法は手が込んでいますが、生活習慣改善及び検査値改善という成果を確実に出せるということが確信できました」と、今後の全国展開に向けて意欲を燃やしている。

社会保険健康センターを1次予防の拠点として活用
<ペアーレ>では、健康づくりをサポートする各種の講座が開催されている 社会保険健康(づくり)センター〈ペアーレ〉は、心身両面からの健康づくりを目的とした総合施設で、各都道府県の中核都市に45カ所設置されている。温水プール、トレーニングルーム、セミナールーム、多目的ホール等を備えており、多彩な講座が設けられている。

〈体の健康づくり講座〉としては、スイミング、アスレチックトレーニング、体操、ヨガ、気功、エアロビクスなど。〈心の健康づくり講座〉としては、書道、絵画、茶道、華道、コーラス、カラオケ、囲碁、俳句、外国語会話、手芸などがある。

「民間のアスレチッククラブやカルチャーセンターもありますが、〈ペアーレ〉は両方を兼ね備えた施設です。料金も民間より2〜3割安く設定されていますし、非収益事業も積極的に展開しています。運動に関しては運動指導員がついて、その人の体力に応じたカリキュラムを組んで指導しています。この〈ペアーレ〉を1次予防の拠点として活用したいと考えています」と、武舎常務理事はいう。
〈ペアーレ〉は、一般の人が気軽に利用できる施設で、平成13年度の講座受講者数は約440万人、健康セミナー等の参加人員は約21,000人、健康相談は約56,000人に上るという。

「保健師による健康増進コースを点とすれば、幅広く一般人を対象とした〈ペアーレ〉の講座や健康セミナーは面の活動といえます。どちらに重点をおくのがよいのかという問題はありますが、両方を組み合わせることで、より成果を挙げられるはずです」。

『健康日本21』への取り組みはまだスタートしたばかりで、本格的な活動はこれからになるという。
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